転倒時の危険性は「転倒時の対応」で述べた通りですが、その中でも生命予後に関わる恐れが高いのが「頭部打撲」です。
一刻を争う事態にもなりかねないのが「頭部打撲」ですので、頭を打った方への適切な対処法を学びましょう。
頭部打撲について
多くの施設では頭部打撲の際には病院へ受診する方針になっていると思います。
頭をぶつけたりして、頭部に外力が加わり、頭皮、頭蓋骨、頭蓋内にダメージを負うことを頭部外傷といいます。
頭部外傷には、皮下血腫(たんこぶ)、骨膜下血腫、挫創、骨折、頭蓋内出血(急性硬膜外、硬膜下、脳内)、脳挫傷などがあります。
CTなど画像検査で明らかな異常がなく、受傷時前後の記憶や意識がないのが脳震盪です。めまいやふらつき、頭痛などを伴うこともあります。受傷後、意識障害が6時間以上続くものには、びまん性軸策損傷というやつもあります。
詳しくは医師に任せて、ここでは現場で知っておくべき知識を押さえておきましょう。
(1)頭部外傷は時間との勝負
頭部外傷の症状は通常6時間以内にあらわれます。しかし、高齢者の場合はまれに亜急性硬膜下血腫という2〜3日たってから発症するものがあるので頭に入れておいてください。
ダメージが重度の場合、だいたい数十分以内に症状があらわれます。
頭蓋内に損傷があった場合のゴールデンタイム(ダメージを最小限に抑え、
回復が見込める時間)は6時間といわれています。ゴールデンタイムを過ぎてしまうと受診しても手遅れの場合がありますので、時間には注意してください。
(2)吐いたらヤバい
頭部を打撲してから、6時間以内に嘔吐するようなら、頭の中に出血などがある可能性があります。
頭蓋内に出血などがあると、頭蓋内の圧力が上がり、脳が脊髄へ逃げる(脳は頭蓋骨で被われており、頭蓋骨に塞がれていない方向に脳が押し出されてしまう)ので、脊髄方向に圧がかかります。この圧力が脳幹部の嘔吐中枢を刺激して、吐いてしまうのです。いわゆる、脳ヘルニアの状態です。
頭部を打撲したあとに、吐いたら、かなり危険な状態と考えてください。
(3)数か月後でもヤバい
高齢者は、受傷から3週間以上経過して慢性硬膜下血腫を発症することがあります。中には、2〜5か月経過してから発症する高齢者もいます。
風邪も引いていないのに頭が痛い、午前中に吐き気がする、手足がしびれる、箸を落としやすくなった、つまずきやすくなった、認知症の症状が急にあらわれたり、急に進行した、といった症状が見られるようになったら、慢性硬膜下血腫を疑いましょう。
老化現象と間違えやすいのですが「数か月前(数週間前)に頭を打っている」ということを念頭に置いて、注意深く観察してください。
高野真一郎(日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医)
昭和51年生まれ。岩手医科大学を卒業後、北上済生会病院で初期研修を修了し、外科・心臓血管外科を専攻。多摩丘陵病院、慶應義塾大学病院、東京天使病院等にて急性期治療から慢性期治療を経験。その後、やまとサンクリニック、登戸サンクリニック、八王子北クリニックにて在宅医療や介護と関わる。現在、しん平和島クリニック院長。本書は、著者が実際に使っていた看護師・介護士へのレクチャーマニュアルがベースとなっている。日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医。
しん平和島クリニック http://www.shin-heiwajima-cl.jp/
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