高齢者は若年者よりも些細なことで骨折しますが、原因の多くは「転倒」です。
転倒には様々な原因がありますが、その原因は「外的要因」と「内的要因」の2つに大別できます。
転倒の原因となる2つの原因
転倒の主な原因は下記の2つです。
- (1)外的要因(防ぐことができる転倒):室内の段差、障害物など
- (2)内的要因(防ぐことができない転倒):病気、老化など
(1)については、あらためて説明する必要はないと思います。室内のバリアフリー化、整理整頓、清掃などできちんと対応しましょう。
(2)については、少し勉強をしましょう。
転倒によって引き起こされる病状は死に至る可能性が高い
転倒の内的要因には、老化による身体機能の低下(足腰が弱くなる)、心血管系や神経系の疾患(心不全や脳梗塞など)、薬剤による影響、心理的影響などがあります。
具体的な病態でいうと、不整脈、心不全、肝不全、便秘、脳梗塞、脳出血、てんかん発作、認知症、不眠症、うつ状態、脱水状態、睡眠薬や安定剤の内服などなど、挙げ始めたら切りがありません。要するに、医師以外にはわからないということです。
なぜ、転倒に注意しなくてはいけないかというと、転倒によって引き起こされる病状は死に至る可能性が高いからです。
転倒→打撲、骨折、動脈出血、静脈出血
→麻痺、自信喪失
→ADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)低下
この一連の流れに乗せないように!
特に骨折は、折れた場所によっては動脈損傷の危険があり、その場合は緊急手術以外の救命手段はありません。
静脈出血ならば、自然に血が止まることが多いのですが、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬、抗血小板薬など)を飲んでいる場合は、血が止まりにくくなっているので、死亡する危険性が高くなります。
脳出血の場合も血が止まりにくいので、死に直結します。
胸椎や腰椎などを骨折した場合、脊髄にダメージが及ぶと、麻痺などが出現します。
転倒している人を発見したら
では、シミュレーションをしてみましょう。
転倒している人がいて、大腿部と腰を激しく打った様子です。
あなたならどうしますか?
多くの場合、すぐに椅子に座らせたり、ベッドに寝かせたりするでしょう。
しかし、その動作の衝撃で、大腿部の動脈を損傷したり、脊髄を損傷したりすると、どうなると思いますか?
その後、急変することは容易に想像できると思います。
若年者の場合、どのように転倒したかによってある程度は受傷箇所を予想することができますが、高齢者の場合は、想像できない場所が折れていたりするので、医師以外の人は絶対に受傷箇所の判断をしないでください。
安易に「大丈夫そうだ」と判断して、転倒した人を動かすと、時に深刻な状況に陥るということを肝に銘じておいてください。
頭の中の出血は、数時間後に症状が出現することもあれば、3か月たってから症状が出てくることもあります。
「転倒したけど何ともないから報告しなかった」なんてことがあると、助かる命をみすみす逃してしまうことにもなりかねません。
そして、繰り返しになりますが、血液をサラサラにする薬を内服している人には特に注意をしてください。
詳しい対処法については「介護施設などでの転倒者を発見したら」をご参照ください。
高野真一郎(日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医)
昭和51年生まれ。岩手医科大学を卒業後、北上済生会病院で初期研修を修了し、外科・心臓血管外科を専攻。多摩丘陵病院、慶應義塾大学病院、東京天使病院等にて急性期治療から慢性期治療を経験。その後、やまとサンクリニック、登戸サンクリニック、八王子北クリニックにて在宅医療や介護と関わる。現在、しん平和島クリニック院長。本書は、著者が実際に使っていた看護師・介護士へのレクチャーマニュアルがベースとなっている。日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医。
しん平和島クリニック http://www.shin-heiwajima-cl.jp/
「これ」だけは知っておきたい高齢者ケアにおける命を守る知識と技術【超基礎編】高野真一郎(日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医)