失神とめまいの違いを判別するのは医師でも困難です。失神しそうになったにもかかわらず「ちょっとめまいがして」「貧血気味で」という患者さんはたくさんいます。
根本的な考え方は同じですので、ざっくりと、どちらも似たようなものと覚えてしまっても構いません。
失神について、看護師・介護スタッフとして最低限知っておくべき知識を説明します。
失神とは
失神とは「一過性の意識消失発作の結果、姿勢が保持できなくなり、かつ自然に、また完全に意識の回復がみられること」と定義されています。
基本的な病態生理は「脳全体の一過性低灌流(いっかせいていかんりゅう)」です。
簡単にいうと、脳に一時的に血液が流れなくなった状態です。
場合によっては、前駆症状(浮動感、悪心、発汗、視力障害など)を伴うこともあります。
また、回復後に逆行性健忘(ある地点から過去、昔の記憶がなくなってしまう症状)を認めることもあります。
失神の原因は多岐にわたりますが、ここでは看護師・介護スタッフとして最低限知っておくべき知識を説明します。
次の3つを理解しましょう。がんばって覚えてください。
- (1)心臓が原因
- (2)脳、神経が原因
- (3)心臓、脳、神経以外が原因
この3つを理解しましょう。
(1)心臓が原因の失神
この代表的な症状は、不整脈と血圧低下です。
不整脈が原因で、心臓が体中に十分な血液を送ることができず、脳への血流が低下します。
このパターンでは、バイタルチェックが重要です。直接脈を触診すれば、脈に不整があるかどうか、1分間で何回くらい脈が飛ぶかはわかるはずです。
血圧も重要です。
収縮期血圧(上)が基準値以下であれば、血液が脳に十分送られていないということであり、拡張期血圧(下)が基準値以下であれば、血液が心臓の冠動脈に十分送られていないということになります。
起立性低血圧(急に立ち上がった時に起こる立ちくらみ、めまいなど)も、
立ち上がった瞬間に脳に十分な血液が届かずに起こるものなので、このパ
ターンに入るでしょう。
(2)神経が原因の失神
この代表的な疾患は、てんかん発作、TIA(Transient Ischemic Attack:一過性脳虚血発作)、血管迷走神経性失神(神経調節性失神)、状況失神(排便後、排尿後、咳嗽後の失神など)などです。
朝の朝礼で倒れるかよわい女の子をイメージしてください。
立位で血圧を維持するための神経反射が破綻して突然低血圧になるんです。
意識を失った患者さんが転倒した際、仰臥位となると、心臓に戻る血液が多くなり、血圧が上昇して意識が回復します。
(3) TIA(一過性脳虚血発作)
ここで、失神の原因の1つである「TIA」についてちょっと掘り下げてみましょう。
脳疾患について詳しく勉強した人は、TIAと聞くと「24時間以内に回復するもの」と覚えていると思います。
実は2009年以降、「TIAは、急性脳梗塞を伴わない、局所的な脳、脊髄、または網膜の虚血によって生じる神経機能障害の一過性エピソード」という定義が一般的となっています。
つまり「24時間以内」という部分に固執せず、数分で回復しても、数日で回復してもTIAということです。
例えば、てんかん発作を頻繁に起こす患者さんが、普段の発作とは異なる様子の発作を起こし、数分で回復したとしましょう。この患者さんには医師から「てんかん発作なら経過観察」と指示が出ていました。
さて、看護師・介護スタッフとしてはどう判断して行動しますか?
多くの人は「いつものてんかん発作だろう。すぐもとに戻ったし、あとで報告すればいい」と判断されると思います。
はたして、TIAの新しい定義に倣ってもこの判断は正しいですか?
本当にてんかん発作ですか?
脳虚血に伴う症状ではないと判断する根拠はありますか?
TIAの新しい定義では「TIA発作が起きたら初期検査と初期治療を行うことが望ましい」という方針になったんですね。
つまり「一瞬気を失ったけど、すぐにもとに戻ったから、検査とかはしないで経過観察にしよう」という考えはNGということです。
明らかに最期が近い患者さんで、心肺蘇生を行なわず自然死を迎える方針となっていても、家族に終末期の説明と同意が行われていない場合は、必ず医師に検査するかどうか相談してください。判断は医師に任せましょう。
急性冠症候群
ところで、心疾患には次のような疾患概念があります。
「不安定狭心症」→「ACS:急性心筋梗塞」
この疾患の一連の連続性を、ACS(Acute Coronary Syndrome:急性冠症候群)と総称して考えます。
不安定狭心症と聞くと、やばそうだから循環器内科に受診させたくなるでしょう?
不安定狭心症は心臓の虚血に関わりがあり、TIAは脳の虚血と関わりがあると思ってください。どちらも怖いでしょ?
TIA(一過性脳虚血発作)
→ACVS(Acute Cerebrovascular Syndrome:急性脳血管症候群)
この一連の流れの中で治療を行う概念です。
TIAは早期に治療を開始することで、その先の脳梗塞への進展を防ぐという考え方です。
「急性心筋梗塞」と「急性虚血性脳卒中=急性脳梗塞」については、病院へ行かないという判断をする人はいないと思うので割愛します。
失神には前述したように(1)心臓が原因、(2)脳・神経が原因、(3)心臓、脳、神経以外が原因の3つがあり、検査にあたっては(1)から(3)の全てを調べなければならないので、心電図の他に心頚部エコーや頭部CT(MRI)も必要となり、設備の整った病院へ行く必要があります。
受診時には発作後の継時的なバイタルがわかると非常に有難いので、医師から指示がなくとも可能な限りバイタルチェックをしてください。
失神した場合は、余程の理由がない限りは受診するようにしましょう。
(3)心臓、脳、神経以外が原因の失神
心臓、脳、神経以外の失神の原因は主に心因性、低血糖などです。
失神が起こると人間は必ず転倒します。絶対に転倒します!
しかし、心因性による失神では、頭部(特に顔面)に外傷がないことが多いんです。
無意識にかばってしまうんでしょうね。意識があるのに転倒して頭部をかばわないのは江頭2:50くらいでしょう。
失神に限ったことではありませんが、転倒などの際には、頭部の打撲がないかどうかは必ず目と手で確認してくださいね。
低血糖による失神については、当然、糖尿病の患者さんを念頭に置いておかなければいけません。
もし低血糖の状態が長く続くと脳は不可逆的(もとに戻らない)なダメー ジを負います。
ところで、低血糖状態がどれくらい続くとヤバいかわかりますか?
一般的には4〜5時間といわれています。
寝入る時は何ともなくても、7時間後の朝にはすでに……、なんてこともありえるわけです。
高血糖よりも低血糖の方が死の危険性が高いと覚えておきましょう。
例えば、血糖コントロールが良好な糖尿病患者AさんはBS(Blood Sugar:血糖値)35、血糖コントロールが不良な糖尿病患者BさんはBS300、はたしてどちらが危ないと思いますか?
Aさんの方ですね。低血糖は危ないという意識を持ちましょう。
高野真一郎(日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医)
昭和51年生まれ。岩手医科大学を卒業後、北上済生会病院で初期研修を修了し、外科・心臓血管外科を専攻。多摩丘陵病院、慶應義塾大学病院、東京天使病院等にて急性期治療から慢性期治療を経験。その後、やまとサンクリニック、登戸サンクリニック、八王子北クリニックにて在宅医療や介護と関わる。現在、しん平和島クリニック院長。本書は、著者が実際に使っていた看護師・介護士へのレクチャーマニュアルがベースとなっている。日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医。
しん平和島クリニック http://www.shin-heiwajima-cl.jp/
「これ」だけは知っておきたい高齢者ケアにおける命を守る知識と技術【超基礎編】高野真一郎(日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医)