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抗酸化物質とは
酸素が、ある物質と化合することを「酸化反応」といいます。
酸化反応は、動物が生命活動を維持するためのエネルギーを生み出す根源的な化学反応ですが、その反面、酸素は高エネルギー物質であり、細胞を傷つける危険性も併せ持っています。
酸素の中でも特に活性の高い「活性酸素」(スーパーオキサイド)は、細菌などの外敵を殺す免疫反応の中心的な役割を担っていますが、一方で、利用されずに余った活性酸素は、正常な細胞も傷つけて老化や癌などの病気の原因になることが知られています。
しかし、そのような余った活性酸素を無毒化する物質が存在します。
それが抗酸化物質です。
ちなみに「抗酸化」とは、酸化に抵抗するという意味です。
抗酸化物質を含む食品の摂取は体に良い
抗酸化物質は、主に緑黄色野菜や果物などに豊富に含まれています。
ビタミンC、ビタミンE、ベータカロチン、リコピン、ルテインなどは、よく知られた抗酸化物質です。
また、ワインやチョコレート(カカオ豆)、コーヒーに含まれるポリフェノール類も有名な抗酸化物質です。お茶に含まれるカテキンもポリフェノールの一種です。
これらの抗酸化物質を豊富に含む食品は、健康や疾病予防に効果があることが、さまざまな研究で確認されています。
たとえば米国で行われた大規模な研究では、緑黄色野菜や果物を多く摂る人たちは、一般的な食事を摂る人たちよりも、心血管系疾患や癌などの疾患にかかる割合が低いことが明らかになっています。
また、フランスやベルギーの人たちは、他のヨーロッパの地域に比べて乳脂肪や動物性脂肪の摂取量が多いにもかかわらず、心臓病による死亡率が低いというデータがあります。
これについて、フランス・ボルドー大学の科学者は、赤ワインに含まれるポリフェノールの抗酸化作用によるものであるとの研究結果を発表し、この影響で世界的な赤ワインブームが起こりました。
日本でも国立がん研究センターが、緑茶の摂取量が増えるほど、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患による死亡の危険度が低下するという研究結果を発表しています。
このように、抗酸化物質を豊富に含む食品や飲料の摂取が健康に良いというデータが次々と発表されたことで、抗酸化物質の健康効果が評判となり、現在ではさまざまな抗酸化物質のサプリメントが開発、販売されています。
抗酸化物質サプリメントは効果がない
このように、抗酸化物質を含む食品が健康に良いという複数の研究結果や、さまざまな実験によって抗酸化物質に細胞損傷を防ぐ働きが確認されたため、手軽に抗酸化物質が摂取できる抗酸化サプリメントが開発、販売されるようになりました。
しかし、米国国立衛生研究所が行った大規模な調査では、抗酸化サプリメント(ベータカロチン、ビタミンA)が、心血管系疾患や癌、白内障などの発症リスクを低下させることは確認されませんでした。
また、その後の研究でも、ベータカロチン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどの抗酸化サプリメントを摂取することによる、心血管系疾患、癌、白内障などに対する予防効果や死亡率の低下は確認されませんでした。
なぜ抗酸化サプリメントは効かないのか?
抗酸化物質は、老化や病気の予防に効果があると期待され、さまざまな抗酸化サプリメントが開発、販売されてきました。
しかし現在では、抗酸化サプリメントは病気の予防には効果がないことがわかっています。
ここである疑問が浮上します。
抗酸化物質を豊富に含む野菜や果物を摂ることは健康に良いが、抗酸化サプリメントは効果がない。
これはいったいどういうことなのでしょうか?
「健康の維持・増進」、「病気の予防」には非常に多くの要因(食事、運動、睡眠など)が関係しており、特定の物質を摂取すれば良いというわけではないのです。
たとえば、緑黄色野菜や果物をたくさん食べる人が健康的なのは、
「健康意識が高く、一般の人よりも脂質の摂取が少ないから」
と考えることもできますし、
「野菜に含まれる食物繊維の摂取量が多いから」
と考えることもできます。
また、野菜や果物には抗酸化物質だけでなく、その他のさまざまな物質が含まれており、抗酸化物質以外の物質が健康に寄与している可能性も示唆されています。その他、食事のメニューの組み合わせや食事の時間なども健康に影響を与えているかもしれません。
サプリメントから抗酸化物質を摂っているといっても、それが「健康の維持・増進」、「病気の予防」に直接つながるとは限らないのです。
抗酸化サプリメントの過剰摂取の危険性
ビタミンやある種のミネラルが不足すると、欠乏症という病気になることが知られています。
脚気はビタミンB、壊血病はビタミンC、夜盲症はビタミンAの欠乏による病気です。
また、亜鉛が不足すると味覚異常が起こります。
このように病気の原因物質が明らかな場合には、不足している物質を摂ることで劇的な治療効果が得られます。
一方で、ある種の抗酸化サプリメントを過剰に摂取した場合、健康に害を及ぼす可能性があります。
喫煙者が高用量のベータカロチンサプリメントを摂取した場合、肺癌のリスクが増大するという報告があります。
また、高用量のビタミンEサプリメントを摂取すると、前立腺癌や脳卒中のリスクが増大するという報告もあります。
特にビタミンE、ビタミンAといった脂溶性ビタミンは体内に蓄積し、ビタミン過剰症を引き起こす可能性があるので、ビタミンE、ビタミンAを高用量に含むサプリメントには注意が必要です。
また、サプリメントの中には、薬の効果を強めたり、弱めたりするものもあるので、薬を服用している人がサプリメントを摂取する場合には、特に注意が必要です。
サプリメントより生活の改善を
人間の健康には、食事はもちろんのこと、それ以外にもいくつもの要因が複雑に関与しています。
したがって、健康を考えるときには、食事をはじめとする生活習慣全体を見なければいけません。
特定の何かを摂取すれば健康になるという安直な考え方は、捨てたほうがいいでしょう。
また、近年の研究では、活性酸素の働きは、かつて考えられていたような単純なものではないことがわかっています。
活性酸素が癌細胞の転移や成長を阻害したり、身体を活動状態から休止状態に移行させるシグナルとして働くなど、有益な作用を示すこともわかっています。
したがって、活性酸素を単純に減らすことが、必ずしも健康に良いとは言えないのです。
最後に、食事や医療の代わりにサプリメントを利用すること、病気の人がサプリメントで治そうとして、医療機関の受診を先送りにすることは、絶対に行ってはいけません。
サプリメントは、あくまでも何か特定の物質が体内で不足している時に、その不足分を補充するためのものです。また、適用量を過剰にオーバーした量のサプリメントを摂取するのもダメです。サプリメントの過剰摂取による害がまったくないとはいえないからです。
サプリメントは必要な場合に、賢く、正しく利用してこそ効果が得られるものです。
健康上の問題を抱えていない人にとっては、バランスの良い食事と規則正しい生活習慣で暮らすことのほうが、サプリメントに頼った生活よりも良い結果をもたらすでしょう。
【参考】