エネルギー代謝は摂取したカロリーを燃焼(酸化)させて
熱エネルギーに変換して体温を維持する作用などがあるので、
代謝が上がって熱量生産が増えれば冷え性が治る、という発想だと思いますが、
ここで大事なことは、「冷え性の原因は何か?」ということです。
冷え性とひとくちで言っても、
手足の先が冷える人、腰のような体幹部に冷えを感じる人、
体温が低くなくても体の中が冷たく感じる人、
頭はのぼせたような感じなのに下半身に冷えを感じる人、
冷房や急な寒さなどの温度変化に弱い人と、人によって症状は様々です。
冷え性の改善には、まず、その原因を考えることが大事でしょう。
代謝よりも血液循環
手足の先などの冷えがひどく、
アカギレやシモヤケができやすい人の体表面温度を測ってみると、
実際に手足の先の温度が低下していることがあります。
これは末端での血行がうまく流れていないことために起こる症状です。
全身の体温は、身体の内部で温められた血液が全身を循環することで保たれるので、
血液の循環がうまくいかない部位では体温が低下してしまいます。
みなさんはエコノミークラス症候群をご存知でしょうか?
飛行機のエコノミークラスの席で、ずっと座ったままでいると、
重力によって足に溜まった血液が循環せずに固まってしまい、
その塊が肺などの血管に流れて血管をふさいでしまう(塞栓症)病気です。
この、足に溜まった血液を心臓に戻す働きは、
ふくらはぎの筋肉が収縮することで行われています。
ですからエコノミークラス症候群の予防に、足の運動が取り入れられているのです。
冷房が効いたオフィスで長時間、座り続けて仕事をしても、これと同じことが起きています。
特に女性はスカートでひざ下を露出していることが多いですし、
パンプスなどで足の動きが妨げられています。そして冷たい空気は下に溜まりやすいので、
足全体が冷えて、冷えた血液がうまく心臓に戻らず、
血行が悪くなって足がより冷えるという悪循環になってしまいます。
オフィスで足が寒いと感じた時にもっとも良いことは歩くことです。
歩くことでふくらはぎの筋肉が収縮して、足に溜まった血液が心臓に戻り、
温かい血液が足に流れてきます。爪先立ちになって踵を上下することも効果的です。
ふくらはぎの筋肉は足首の関節の動きで収縮するので、
足首の動きが狭いハイヒールではなく、平底の靴や底の柔らかい靴を履くようにしましょう。
また、貧血のように赤血球の濃度が減少している場合も
血行によるエネルギーや酸素の供給が不足するので、
ダイエットなどで不規則なバランスを欠いた食事をすることは避けましょう。
体温と代謝の正しい関係
代謝という言葉は漠然としていて具体的に説明できない人が多いと思います。
簡単に言うと「体外から摂取したものを、体内で活用したり、
体に無毒なように体内で化学変化させるシステム」です。
人間は、体内では非常に多くの化学反応が起こることで生体機能を維持しています。
この一連の化学反応を代謝と言います。
炭水化物を糖に分解してエネルギーを得る過程は「糖代謝」、
余分な糖を脂質に変化させて貯蔵したり利用する過程は「脂質代謝」、
骨の細胞を作るのは「骨代謝」というように、
それぞれの物質や働きごとに代謝経路があります。
この化学反応を起こすために必要な物質が酵素で、
化学反応ごとに固有の酵素が存在しています。
この酵素が活発に働くのは体温が37℃以上の時なのです。
ですから代謝が上がれば冷え性が治るのではなく、体温が上がると代謝が活発になり
冷え性も改善されると考えるのが妥当です。
昔から「冷えは万病のもと」と言われますね。
漢方(東洋医学)では「冷え」を避けることが重視されていますが、
科学的にも理にかなったことなのです。
冷え性の原因は、体を冷やすような環境、血行を悪くする生活、
ストレスやホルモンバランスの乱れに伴う自律神経の失調など、
さまざまな要因がからみあっていますが、
その多くは生活習慣を改善することで対処できます。
バランスのとれた適量の食事を規則正しくとり、
体を冷やさない服装や冷たいものを摂りすぎないことを心がけ、
適度な運動(地下鉄1駅くらいなら歩くという程度)を習慣にし、
夜更かしを避けて十分な睡眠をとるといった、昔からの養生法がとても効果的です。
参考までに、冷えしょうには「冷え性」と「冷え症」の2つの表記があります
西洋医学では「冷え性」は冷えやすい体質で病気として扱われていませんが、
東洋医学ではまさしく「冷えは万病のもと」で「未病」として扱われ、治療の対象となります。
深刻な冷え性でお悩みの方は、漢方専門医や漢方相談薬局に相談してみることも良いでしょう。
【参考】