精神科を受診するのは、必ずしも精神疾患を抱えた患者さんだけとは限りません。
「最近、うちの子の様子がおかしい」と親が子どもを病院に連れてくる場合もあります。
親が子どもを連れて受診する場合、親が困っている問題(子どもの不登校、自傷行為など)と、子どもが困っている問題(親子関係、学校の人間関係、いじめなど)との間にズレがある場合があります。
最終的に、親が困っていることと、子どもが困っていることが、どこかで一致すれば、そこから治療が始まることになります。
しかし実際には、子どもは「音楽を勉強するために専門学校に進みたい」と言い、親は「音楽で食ってなんかいけやしない、大学でも音楽は趣味として続けられるだろう」と、話が平行線をたどることもあります。
このように親と子どもの意見が一致しない場合、医師にできることは、子どもに「期限を決めて専門学校に行き、ものにならなければ大学に行く」と約束をさせたり、親に「お子さんの行きたい専門学校を一緒に見学してみてはどうですか」とアドバイスすることくらいです。
その後の成り行きによっては、子どもが選んだ進路で頭を抱えてしまった親の相談を受けたり、症状次第では治療を行ったりすることもあります。
このように、当初「患者」と思われた人が治療を望まず(あるいは治療の必要がない)、その一方で家族のなかでもっとも困っている人が、相談や治療を受けにくるケースは、精神科ではまれではありません。
特に、家族関係に問題がある場合は、相談するという行為を通して、家族の問題が整理されて、家族関係が改善することもあります。
(備考)
この記事は『こころの病気を治すために「本当」に大切なこと : 意外と知らない精神科入院の正しい知識と治療共同体という試み 』(青木崇・著)の内容を一部抜粋・改編したものです。
青木 崇(精神科医)
1970年川崎生まれ。1996年京都大学医学部医学科卒。
京都第一赤十字病院研修医、富田病院(函館)常勤医師を経て、2005年国立清華大学人類学研究所(台湾・新竹)卒(人類学修士)。帰国後、のぞえ総合心療病院(久留米)、江田記念病院(横浜)で勤務。2018年からは外務省在外公館で医務官として勤務している。精神科医、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医。『こころの病気を治すために「本当」に大切なこと : 意外と知らない精神科入院の正しい知識と治療共同体という試み 』
著者・青木崇(精神科医)