介護施設内で患者さんが心肺停止を疑う症状になったとき、どのように対処したら良いのでしょうか?
状況を確認する方法から、心肺マッサージの方法までを解説します。
介護施設で心肺停止疑いが起こったら
見出しに「心肺停止」とありますが、正確には「心肺停止疑い」もしくは「聴診上呼吸音心音の聴取不可」といったほうが正しいですね。
「心肺停止」の診断を下せるのは医師だけです。医師以外の人が勝手に診断すると医師法違反になりますので、くれぐれも注意してください。
さて、介護施設内でこのような状態に遭遇した時、患者さんによって対応が異なってきます。
「心肺停止疑い」が起きた時に必ず確認すること
「心肺停止疑い」もしくは「聴診上呼吸音心音の聴取不可」が起こった時、まず以下の4点を確認します。
- 家族に医師からの詳しい説明は済んでいるか?
- 看取りは施設でやるのか?
- 心臓マッサージを行うか?
- 挿管をするか?
この4つは最低限です。必ず、常に把握してください。必ずです。
これは介護施設や主治医の考え方によって異なりますが、「必ず施設入居時に延命処置を行うかどうかを決定してください」という意味ではありません。
全身状態は刻一刻と変化していきますし、家族の考え方も変化していきますので、その都度意思の確認をすることが大切です。
看護・介護スタッフと本人・家族の意思は常に同じであるように努力してください。
患者さんの意思が確認できていない場合は……
もし意思確認をしていない場合、患者さんを病院へ搬送すると医療チームは施行可能な救命・延命処置を全て行うことになります。
体にはいくつも点滴が入り、心臓マッサージによって胸骨などは骨折し、挿管(気管にチューブを挿入)されて、人工呼吸器で辛うじて延命できている……。
あなたはこのような状態になっても延命を望みますか?
望まない人がほとんどだと思います。しかし、意思の確認ができない場合は、医師は全ての処置をせざるを得ないのです。
さらに加えて、知っておいてほしいことがあります。人工呼吸器管理を開始しても回復の可能性がなく、家族は延命治療の中止を希望したとしましょう。もしこうなっても、人工呼吸器の電源を切ることはできません。
2015年4月現在、日本では尊厳死は法律上認められませんので、一度、人工呼吸気器管理を開始すると、本人が回復しない限り再度会話することはできません。これは本人の身体的ダメージだけではなく、家族の精神的・経済的負担や医療資源に対する負担もかなりのものです。
状況にもよりますが、事前に最期の迎え方について考えておくことは非常に大切なことだと思います。
心肺マッサージの方法
では心肺蘇生を施行する場合について復習をしましょう。
BLS(Basic Life Support:一次救命処置)やACLS(AdvancedCardiovascular Life Support:二次心肺蘇生法)の講習会に参加したことがある人もいると思いますが、これは2~5年ごとに世界規模で手法の見直しが行われます。
2015年10月に大幅な改定があったので、それをもとに復習しましょう。
「心肺蘇生のABC」という言葉を聞いたことあると思います。
AはAirway(空気の通り道)、BはBreathing(呼吸)、CはCirculation(循環)またはChest Compression(胸部圧迫、心臓マッサージ)で、ABCの順番にチェックすると習った人もいると思いますが、現在ではこの考え方は古くなっています。
救命措置を行う人が、医療関係者か一般市民かによって方法は異なるのですが、まずは一般市民向けの方法をマスターしましょう。
倒れている人がいて、心肺停止を認めたら、AとBはすっ飛ばして、いきなりCの心臓マッサージを始めてください。
気道確保や呼吸の確認なんてやらなくていいです。
(注:これはあくまで一般市民向けの方法です。看護師はできて当然で、その上で医療従事者向けの方法をマスターしてください)
心臓マッサージの方法も改定されました。
回数:1分間に100~120回以上の速さで
深さ:5~6cm
押す場所は乳首と乳首の真ん中の骨(胸骨)の上です。「押したらしっかりと胸を元にもどす」「中断は10秒以内」「胸にもたれかからない」「119番通報した時に指示を仰ぐ」ことが重要です。
1分間に100回という速さは「アンパンマンのマーチ」、「地上の星」、「夜空ノムコウ」のリズムとほぼ同じです。
どれでもいいので、自分で体で覚えて、それより速いペースで行えるように覚えておきましょう。
深さ5~6cmについてですが、胸骨や肋骨が折れる深さ、もしくは、背骨に触れるくらいの深さという感覚を持っていてください。実際、骨折させないで心臓マッサージを行うことはほとんど不可能です。また、慣れていない人は少しずつ深さが足りなくなりますので、やるなら折るつもりで! 折れても躊躇しないでくださいね。
心臓マッサージは絶対にやり続ける
いったん蘇生術をやり始めたら、救急隊か医師が到着するまでは絶対にやめてはいけません。
始める判断は自分で下すことができますが、やめる判断は医師以外には許されません。救急隊もしくは医師が到着するまで絶対に続けてください。
AEDを準備・装着する間も心臓マッサージはやり続けます。唯一、AEDが「解析中です、患者から離れてください」とか「電気ショックを行います。患者から離れてください」というアナウンスがあった時だけ休めます。
AEDのショックが終わったら、ショックの結果を待たずに即座に心臓マッサージを再開します。
いいですか?
心肺蘇生を行っている間、その場に医師がいない時は一瞬でも患者さんから離れてはいけません。
これは絶対です。
もし動転して何をやればいいのかわからなくなっても、看護師は患者さんから離れないこと。
看護師はそばにいるだけで患者さんを含め、その場にいる人間に力を与えてくれる、そんな存在なんです。そんな存在でいてください。
もし、施設においてCPRが必要なシチュエーションになった場合、看護師以上に頼れる職種はありません。もしもの時のために勉強はしておきましょう。
高野真一郎(日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医)
昭和51年生まれ。岩手医科大学を卒業後、北上済生会病院で初期研修を修了し、外科・心臓血管外科を専攻。多摩丘陵病院、慶應義塾大学病院、東京天使病院等にて急性期治療から慢性期治療を経験。その後、やまとサンクリニック、登戸サンクリニック、八王子北クリニックにて在宅医療や介護と関わる。現在、しん平和島クリニック院長。本書は、著者が実際に使っていた看護師・介護士へのレクチャーマニュアルがベースとなっている。日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医。
しん平和島クリニック http://www.shin-heiwajima-cl.jp/
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