うんちに含まれているもの
いきなり尾籠な話で恐縮ですが……。
みなさんは「うんち」は食物のカスだと思っていませんか?
実は、うんちの固形分のうち、食物のカスが占める割合は3分の1程度に過ぎません。
残りの3分の1は古くなった腸粘膜、さらに残りの3分の1が腸内細菌とその死骸です。
腸内細菌は大腸菌や乳酸菌、ビフィズス菌が良く知られていますが、小腸から大腸にかけて100種類以上、約100兆個、2㎏にもなる細菌が生息しています。
人間の細胞数が約60兆個なので、それよりも多い細菌が私たちの腸の中で暮らしているのです。
免疫にも関与する腸内細菌
腸内細菌は単に人間に寄生しているわけではありません。
食物繊維などのように人間が消化できないものを分解して、人間が活用できるエネルギー源や、免疫や代謝の調節を行う物質を作り出しています。
つまり腸内細菌と人間は共生関係にあるわけです。
最近の研究では、無菌状態で飼育した腸内細菌が存在しないマウスや、抗生物質によって腸内細菌を駆除したマウスでは、免疫を担うリンパ球の機能が低下していることが明らかにされています。
ただし、免疫機能が低下したマウスに通常マウスの腸内細菌叢を移植すると、機能は正常化します。
また、無菌マウスではアレルギー反応が過剰な状態になることもわかりました。
さらに、この無菌マウスに、生後5週間までに通常マウスの腸内細菌叢を移植するとアレルギー反応が過剰な状態は改善されるが、成長したマウスでは改善されなかったという報告もあります。
この結果から、腸内細菌はアレルギー反応を含めた免疫の働きに大きな影響を及ぼすことがわかりました。
「うんち」は腸内細菌のバロメーター
では、このように消化だけではなく免疫にも大きな役割を担っている腸内細菌が、健康な状態にあるのかどうかを知るためにはどうしたらよいのでしょうか?
腸内細菌の健康状態を知る一番手軽なバロメーターは「うんち」。
すなわち、排便の回数と量です。
冒頭で紹介したように、うんち、すなわち大便の固形分の3分の1が腸内細菌とその死骸です。
ということは、たくさんの腸内細菌が健康に活動している人は排便量が多いということになります。
現代の日本人の1日排便量は200g程度と言われていますが、戦前の日本人の平均排便量は2倍の400gでした。
このように排便量が減った原因は、腸内細菌の好物である食物繊維の摂取量が戦前の半分になってしまったことが原因と言われています。
健康な腸内細菌叢を育てるために、根菜、穀物、豆類、芋などの食物繊維を食べましょう。
つまり、ユネスコ無形文化遺産に登録され、世界に認められた「和食」が良いのです。
抗生物質は腸内細菌の敵
米国スタンフォード大学医学部微生物学免疫学講座のジャスティン・ソネンバーグ准教授は、抗生物質の服用開始直後から腸内細菌の数が1/10から1/100に激減し、服用中止後2カ月後でも人によっては腸内の細菌叢が回復しないことを報告しています。
さらに、このような抗生物質の腸内細菌への影響は抗生物質の服用を繰り返すほど悪化するので、その使用は慎重に行うべきだと述べています。
また、ソルビン酸のような細菌の活動を抑える防腐剤は腸内細菌叢に悪影響を与えるので、好ましくないということです。
抗生物質の副作用である下痢や便秘は、抗生物質が腸内細菌叢を破壊することが原因の一つでもあります。
もちろん、抗生物質による治療が必要な疾患もあるので、一概に抗生物質の服用を否定することはできませんが、抗生物質の腸内細菌叢への悪影響は理解しておく必要があります。
【参考】