体温と免疫力は関係あるのか?
「体温が1℃上がると免疫力が5倍になる」
「体温が1℃下がると免疫力が30%下がる」
このようなキャッチコピーを、健康食品の宣伝や健康関係のブログで見かけます。
別の記事「そこが知りたい!免疫についての本当の話(3)」で「免疫力を測る指標や方法はありません」と書きましたが、「免疫力が○○%上がる(下がる)」といった記述の根拠は明確でないことが多いようです。
では、体温と免疫力は関係が無いのでしょうか?
実は体温が低下すると免疫能が低下することは、医学的に確認されています。
脳損傷や心筋手術では、脳や心筋を保護するために体温を32-34℃に低下させる「低体温療法」が行われますが、手術後に体温を平常に戻す際に感染症にかかりやすくなることが知られています。
低体温状態では遊走能・貪食能・殺菌能など、白血球が有する働きが抑制され、免疫能が低下してしまうのです。
「やっぱり冷え症だと免疫が低下するんだ!」と心配になった方、ご安心ください。
ここでいう体温は体の深部体温のことです。
深部体温32-34℃は、家庭の体温計で測った体表体温だと30-32℃に相当するので、どんなに強い冷え症性の人でもあり得ないほどの低体温です。
では「なんだ、冷え症でも大丈夫なんだ」と安心された方。
じつは「体温が多少低くても免疫にまったく影響がない」とも言い切れないのです。
ちょっと複雑な話になるので、順を追って考えてみましょう。
体温低下の問題
体温が極度に低下した状態が続くと何が起こるのでしょうか。
医学的には深部体温が33℃以下になると体の震えが止まって意識レベルが低下し、心臓や消化管の働きも低下します。
30℃以下では錯乱状態になり、心拍数は著明に低下し、消化管も働かなくなります。
そして、この状態が続けば生命活動が停止、つまり凍死してしまいます。
では、なぜ体温が低下すると生命活動が止まってしまうのでしょうか?
その秘密は酵素にあります。
食べたものを消化・分解・吸収し、そこからエネルギーを得たり、いろいろな栄養素から生存に必要なものを体内で合成する過程のほとんどすべては、酵素を介した化学反応によって行われています。
この生命活動の鍵となる酵素が働く最適な温度が35-45℃で、50℃を超えると酵素は機能を失くしてしまいます。
また、酵素の働きは温度の変化に敏感で、35-45℃の間でも温度が1℃上がるごとに働きが10%くらい増加します。
人間の体内で何がどのようになっているかを数値的に証明することはできませんが、免疫細胞が活発に働いてリンパ液や血液が十分に体内を循環するには、生命活動を担う酵素が活発に働けるように、体温が適度に高い方が望ましいと考えらえます。
昔からの言い伝えにも耳を傾ける
東洋医学では「冷えは万病のもと」と考えられており、これは昔から伝えられてきた養生の知恵です。
では、このような養生訓の効果を科学的に証明できるかというと、それは難しいかもしれません。
養生法を “実践した人” と “していない人” に分けて調査し、わずかな生活習慣の違いが何十年後にどのような影響を及ぼすかと立証することは、現実的にはほとんど不可能と言えるでしょう。
しかし、立証できないからといって、昔から養生訓として伝えられていることが無意味であるともいえません。
やはり昔から伝えられたことには、それなりの価値があり、立証できないまでも理論的な合理性があることも多いのです。
昔からの言い伝えには耳を傾ける価値は十分あります。
冷え性の方であれば「薄着をしない」、「冷たい食べ物や飲み物は控える」といったことを心がけ、毎日の軽い運動で体温を上げ、血液循環を活発にすることは、体質の改善に間違いなく役立ちます。
近年流行している「●●をするだけで健康になる」「●●を食べれば健康になる」という安易な健康法ですぐに健康になるということはないでしょう。
当然のことですが、安易な謳い文句に飛びつくのではなく、このような「健康的な生活習慣」に基づいた生活をすることが健康の根本になると思います。
【参考】