「免疫が落ちている」「免疫力を上げる」…
普段から健康についての話でよく耳にする言葉『免疫』ですが、正しい知識を持っていますか?
免疫について学んでみましょう。
免疫がある、ってどういうこと?
普段の会話でも「あの人は恋愛に対して免疫がない」とか
「上司の厭味には免疫ができた」と言うように、
「免疫がある」とは「何度も経験して、馴れてしまう」ことを意味する言葉として
使われています。
もともとは、おたふく風邪や麻疹(はしか)のように、
ある種の病気は一度かかると再びかかることが無いことを指して
「その病気には免疫がある」と言う医学的な意味で使われていたのが語源です。
免疫に関する歴史
免疫で有名なのは天然痘予防の種痘に関する話でしょう。
天然痘は北アフリカが発祥で、ヨーロッパや中東、インドあたりで流行していた病気で、
日本には6世紀頃、アメリカ大陸はコロンブスの上陸以降に伝播しています。
天然痘は天然痘ウィルスが原因で、感染力が非常に強く、致死率20~50%という
恐ろしい病気ですが、天然痘にかかって生き延びた人は二度と天然痘にかからないか、
かかったとしても軽症ですむ「免疫状態」になることが経験的に知られていました。
そこで天然痘患者の膿を乾燥させて毒性を弱めたものを
健康人に接種して免疫状態を作る「人痘」が古くから行われており、
紀元前1000年にインドで行われていたという最古の記録が残っています。
人痘法は世界に広く普及していたのですが毒性が強いという問題がありました。
これが解決したのは、18世紀にウシの病気である牛痘にかかった人は
天然痘にかからないことが発見されてからです。
牛痘は人間がかかっても症状がごく軽いため、
牛痘を人間に接種すれば安全に天然痘予防ができると考えたエドワード・ジェンナーが
1796年に8歳の少年に牛痘の膿を接種させたのちに天然痘の膿を接種させ、
発病しないことを確認したのは有名な話です。この牛痘接種が種痘です。
こうして人類初のワクチンである天然痘ワクチンが開発され、
人類は天然痘を根絶することに成功しました。
「自然免疫」と「獲得免疫」の両方を意味する言葉に
このように、天然痘やおたふく風邪、麻疹のように
「一度かかった感染症に再びかからない状態」が「免疫がある」という言葉の意味ですが、
風邪や肺炎、中耳炎、膀胱炎、にきびなどのように、何度でもかかる感染症もあります。
これらの感染症には免疫が働かないのでしょうか?
実は現在では、免疫は「自然免疫」と「獲得免疫」の両方を意味する言葉になっています。
獲得免疫は、種痘のように一度かかった特定の病原体を記憶して、
再びかからないようにする個別対応の免疫反応です。
自然免疫は、細菌や体内にできた癌細胞などの異物を排除するための、
より広範な免疫反応です。
近頃、よく言われる「免疫を上げて健康づくり」という言葉は、
自然免疫を活性化させて病気になりづらい身体を作るという意味だといえます。
【参考図書】
専門書
もっとよくわかる!免疫学 (実験医学別冊)
読みやすくて、よく分かる本
小児を救った種痘学入門:ジェンナーの贈り物 (緒方洪庵記念財団・除痘館記念資料室撰集)