トクホ(特定保健用食品)と機能性表示食品
近年、健康に良いとされる食品や飲料水には、特定のマークや栄養成分表などが表示されています。
このような表示は保健機能食品制度にもとづいており、トクホ(特定保健用食品)と「機能性表示食品」も、それに該当する食品です(栄養機能食品もありますが、ここでは取り上げていません)。
食品の「機能」とは、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、ざっくりというと、「お腹の調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」といった、その食品を摂取することで期待できる「効果」のことです。
トクホと機能性表示食品、両者とも非常に健康の良い感じがしますが、両者の違いはどこにあるのでしょうか?
両者の大きな違いは、許可制か届出制かという点です。
トクホ(特定保健用食品)は1991年に「健康増進法」に基づいて制定された制度です。
当時の健康食品は、機能の表示がいい加減で、中には効果が疑わしい商品もあったことから、国が健康食品の機能表示を審査・許可制にすることで、健康食品の誇大表示や虚偽広告を規制しようとしたのです。
一方、機能性表示食品制度は2015年に内閣総理大臣の諮問機関である「規制改革会議」によって「経済再生に即効性を持つ規制改革」のひとつとして制定された制度です。
機能性表示食品制度が作られた経緯は、トクホの審査・許可には時間とコストがかかるので、規制を緩和して、届出制とし、利用の間口を広くするために作られたのです。
トクホと機能性表示食品は似たような制度のようにみえますが、じつはトクホは規制強化、機能性表示食品は規制緩和と、相反する目的をもった制度なのです。
機能性表示食品はトクホより「ゆるい」
トクホの許可を受けるには、機能や安全性について国の審査を受けなければいけません。
一方、機能性表示食品は、事業者が国に所定の書類を届け出すれば、国の審査なしで、商品の機能を表示することができます。
機能性表示食品は、表示の対象となる成分が、届出数の増加に比例して、増加しており、トクホでは認められなかった成分も表示可能となっています。また、表示できる範囲も拡大されています。
実際、機能性表示食品として販売されている商品には、次のような表示をみることができます。
機能性表示食品の機能表示例
・目のピント機能の支持、光刺激からの保護、眼精疲労の軽減、目の調子を整える、など
・肌の乾燥緩和、うるおい、保湿力、皮膚の水分保持、など
・膝関節の柔軟性・可動性の支援、関節軟骨の維持、腰の違和感緩和、筋肉増強支援、など
・一時的なストレス軽減、緩和、など
・睡眠の質の向上、改善、起床時の疲労感軽減、など
・認知機能の一部である記憶の精度を高める、記憶力の維持、記憶の支援、など
・疲労感軽減
・目や鼻の不快感の緩和
・末梢体温維持
・健康な肝臓の機能維持
これらの機能をトクホで表示しようとすると、国の審査・認可が必要となります。
しかし、機能性表示食品では、国の審査がなく、届出だけで表示が可能なのです。
規制緩和の結果
消費者庁の機能性表示食品に関する記載は以下の通りです。
「事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品です。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られたものです。ただし、特定保健用食品とは異なり、消費者庁長官の個別の許可を受けたものではありません」
機能性表示食品は一見、国のお墨付きがあるような印象を受けますが、この記載をみると「メーカーや販売会社が提示したデータをもとに、効能や効果は消費者が自己判断してください」と捉えることもできます。
健康に良いと思って機能性表示食品を食べてみたが、期待していた効果が得られなかった。
この程度ならば、ちょっとした散財で済みます。
しかし、健康被害が出たら、そんなことを言ってはいられません。
実際、機能性表示食品による健康被害は数多く報告されています。
中には次のような重篤な例もあます。
友人から目に良いという機能性表示食品をもらい、朝と晩、半月ほど食用した。
ところが、オレンジ色の尿が出たり、全身のかゆみ、全身のだるさとめまいの症状が出たので、内科医院で血液検査を受けると、肝臓検査値が異常に高いと言われた。
「急性肝炎の疑い」と診断され、別の病院に緊急入院した。
担当医の所見は薬物性肝炎とのことだった。
(被害者 40歳代/男性)
医薬品の副作用で健康被害が出た場合、事業者や医療機関は、健康被害と薬との因果関係が明白でなくても、医薬品の情報を国に報告する義務があります。
しかし、食品の健康被害に関しては、食品との因果関係がわからない段階での健康被害の公表には否定的です。
「因果関係が明らかにならないものを公表すれば、消費者は因果関係があると思ってしまいがちだ」(一般社団法人「消費者市民社会をつくる会」代表、元消費者庁長官 阿南久氏)
ただし最近は、機能性表示食品の安全性や効果について、メディアでも取り上げられるようになってきています。
機能性表示食品の効果とは?
前述の「機能性表示食品の機能表示例」をもう一度、振り返ってみましょう。
「睡眠の質の向上」、「認知機能の一部である記憶の精度を高める」といった言葉があります。
「睡眠」や「認知機能」といった脳機能の改善については、医療業界が、今まさに研究・開発を行っている段階です。
医薬品ですら研究途上であるこの分野に対して、食品が確たる効果を発揮すると考えられるでしょうか?
仮に、非常に高い治療効果がある健康食品があったとしましょう。
非常に高い治療効果があるということは、人体に大きく作用するということです。
また、人体に大きく作用するということは、副作用も大きいということです。
このような健康食品を、医師の診断もなく、量も適当に摂取したら、かなり危険だと思いませんか。
すべての食品に機能はある
人間は本来、雑食性の生き物なので、植物性食品と動物性食品の両者からさまざまな栄養を摂取して生きています。
栄養というのはカロリーだけでなく、ビタミンや必須ミネラル、タンパク質など、生命維持に必要な多くの成分の総称です。
穀物には炭水化物を、肉や魚にはタンパク質を、野菜にはビタミン類を、人体に提供する機能があります。
したがって、あえて機能性表示食品を摂らなくても、バランスの取れた食事をしていれば、それだけ十分に健康的な生活を送ることができます。
なにか特別な食品だけを選んで食べることで、特別な効果が得られ、健康状態が格段に向上するという考えは、変えたほうが良いでしょう。
むしろ、そのような偏った食生活は、健康に悪い影響をおよぼしかねません。
【参考】