この記事は、しばらく職場から離れていた看護師、介護施設の管理責任者、スキルアップしたい介護職、リハビリテーションに携わる言語聴覚士、理学・作業療法士などに向けた、医療の基礎知識です。
窒息の怖さと、窒息時の対処法についてまとめました。
窒息は本当に怖い
窒息は怖いです。
あっという間にPEA(Pulseless Electrical Activity:無脈性電気活動:心電図上は何らかの脈拍があるのに、触診では脈拍が触れていない状態)となって心静止(心臓が全く動いていない状態)に移行します。
PEA、心静止は電気ショックを行っても無駄なので、本当に怖いです。
おかゆでも窒息する
ここでは、高齢者の窒息に焦点を絞ります。
まず、何によって窒息を起こすのか知っておきましょう。
少し古いデータですが、多分大きな変化はないでしょう。
症例数が最も多い「もち」はもちろんのこと、「団子」や「ゼリー」ものどに詰まりやすいのは想像できるでしょう。
しかし、「おかゆ」や「流動食」が意外と多いことに驚きませんか?
厚生労働省の統計では、平成18年以降は窒息死は交通事故死よりも多いんです。
早い話が、どんな食べ物でも窒息する可能性があるということです。
窒息時の対処法
多くの場合、人は窒息状態になると「チョークサイン」といって、両手で自分の首を絞めるようなしぐさをします。
では「のどに詰まった!」という時には何をすべきでしょうか?
意識がある場合は咳き込めるかどうかが重要です。咳き込んでいるなら意識はあると判断して、背部叩打法(はいぶこうだほう)を行います。
意識がない場合や明らかにチアノーゼ(唇が紫色になる)症状が出ているなら詰まったものを取り除きます。
意識がない場合は心肺蘇生法と同じで、心臓マッサージを行います。胸部の圧迫によって圧力が高まり詰まったものが取れることを期待して施行します。
のどに詰まった異物を取り除く方法としては、腹部突き上げ法(ハイムリック法)や、背部叩打法が一般的で、皆さんもどこかで勉強したことがあると思います。
医療関係者にはハイムリック法が推奨されていますが、腹部内臓損傷(肝臓、脾臓、腸管損傷など)のリスクが高く、またテクニックも必要な手技なので、自信がない人はやめましょう。
背部叩打法
背部叩打法ですが、まずは前かがみ(または左側臥位)の体位とし、患者さんの背部の肩甲骨と肩甲骨の間を手のひらでたたきます。
たたく方向は患者さんの前額部(おでこ)の方向へ(どんな体位でも前額部方向に)たたきます。ここで重要なのは、かなり強くたたく必要があることです。
はっきりいって、たたくよりも殴るといったイメージです。
躊躇してはダメです。やる時は思い切り殴りましょう。
肩甲骨や鎖骨が骨折したとしても、脊椎が骨折して後遺症が残ったとしても、とにかく命を救うことが最優先です。
背部叩打法も腹部突き上げ法も原理は同じで、胸腔内の圧力を外部から強制的に高めて、その圧力によって詰まったものを吐き出させるわけです。
なお、背部叩打法を行う際ですが、もしかしたら中途半端なところに引っかかっていた場合、肺の奥まで落としてしまう可能性があるかもしれません。これも頭の片隅に置いておいてくださいね。
何度か繰り返しても詰まったものが出てこないなら、その頃には心臓も止まっているでしょうから、心臓マッサージに切り替えましょう。
イメージとしては、のどが詰まってから、5秒で体勢作り、背部叩打法(腹部突き上げ法)を2回(この施行と評価に10秒程度)。それでだめなら5秒で心臓マッサージの体位にして、心臓マッサージ開始。のどが詰まってから、少なくとも30秒以内には心臓マッサージを開始しましょう。
窒息の時の心臓マッサージの方法は、心肺停止の方法と全く同じです。(「心肺停止時の対処法」参照)
この心臓マッサージは胸骨圧迫の意味もあり、そうすることで胸腔が圧迫されて胸腔内圧が上昇するので、詰まっていたものがスポンと取れるかもしれません。
窒息時に絶対やってはいけないこと
窒息した人を助ける時(意識の有無に関係なし)、絶対にやってはいけないのが、口の中を見ることです。
絶対に口に指を入れて詰まったものをかき出そうとしてはいけません!
心情としてやりたくなるのですが、窒息するほどのどの奥にはまったものは絶対に手で取れません。
指を口の中に入れると、結果としてさらに詰まっているものを奥に押し込んでしまいます。
詰まっているものが、明らかに簡単に取れる状態であれば、指を入れてもいいかもしれませんが、通常は絶対にやってはいけません!
窒息したら、回復の有無にかかわらず、救急車で病院へ搬送になりますので、初期対応は重要です。救急隊へも、指を口に入れてないことを伝えてください。指を口に入れたか、入れてないかによって、病院到着後の処置にも違いが出てきますので。
高野真一郎(日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医)
昭和51年生まれ。岩手医科大学を卒業後、北上済生会病院で初期研修を修了し、外科・心臓血管外科を専攻。多摩丘陵病院、慶應義塾大学病院、東京天使病院等にて急性期治療から慢性期治療を経験。その後、やまとサンクリニック、登戸サンクリニック、八王子北クリニックにて在宅医療や介護と関わる。現在、しん平和島クリニック院長。本書は、著者が実際に使っていた看護師・介護士へのレクチャーマニュアルがベースとなっている。日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医。
しん平和島クリニック http://www.shin-heiwajima-cl.jp/
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