「人間の生体活動をコントロールしているのは脳である」
これが今までの常識でした。
しかし最近、腸内細菌叢が産生する短鎖脂肪酸やアミノ酸、腸由来のホルモンやサイトカインが脳に働きかけて、身体の運動機能のみならず、精神的な部分にまで影響を及ぼしていることが明らかになりました。
それ故に「腸は第二の脳」と呼ばれています。
腸が脳をコントロールしている
「腸が脳をコントロールしている」
これは一見すると主従が逆転しているように思えますが、生物の進化を紐解くと、生物に最初にできた器官は腸(消化管)なのです。
じつは人間の体は、海綿やミミズと同じように、一本の管状になっているのです。
管の入口が口、そして食道、胃、十二指腸、小腸、大腸と続き、尿道と肛門が出口です。
この管に食物を効率的に送りこむために筋肉や神経が発達し、その筋肉や神経を効果的に動かすために脳ができたのです。
つまり、生物の進化をさかのぼると、腸が「主」で脳が「従」だったのです。
胃や腸といった消化管の中が食物で満たされていなければ、腸から脳に「お腹が減った」というシグナルが伝わり、脳は食物を探すための行動を全身に伝達します。
このようにして、生物は食物を摂り、生命を維持しています。脳が腸の影響を受けることは、生物にとって当然のことなのです。
ストレスとは?
現代社会では誰もがさまざまなストレスにさらされています。
そして、多くの病気はストレスが原因で発症する、ストレスで悪化する、と言われています。
では、ストレスとは何でしょう?
ある研究によると、動物が驚いたり、緊張したりすると、自律神経の交感神経の働きでアドレナリンが分泌され、心拍数の上昇、血圧の上昇、血糖値の上昇、血管の収縮、肺機能の向上、消化機能の抑制などが起こることがわかりました。
これは動物が危険に遭遇したときに、運動能力を上げて危険を回避しようとする生理的な反応です。このような反応を「ストレス」と呼びました。
ストレスを与え続けられた生物は、数日でそのストレスに対して抵抗性を持つようになりますが、それは見かけ上の反応がなくなるだけで、ストレスを与え続けると、最終的にその生物は寿命よりも短い期間で死んでしまいます。
実際、人間がストレスを受け続けると、身体には副腎皮質の肥大、リンパ組織の萎縮、胃腸潰瘍の形成が生じます。
ストレスが免疫機能の低下や胃潰瘍の原因になることは、一般的にもよく知られています。
「休息の神経」と「闘争と逃走の神経」
自律神経には交感神経と副交感神経があります。
副交感神経は「休息の神経」といわれ、平穏な時に、心身をリラックスした状態にします。
副交感神経が優位な状態では消化機能が活発になります。
これに対して交感神経は「闘争と逃走の神経」と言われ、身に危険が迫ったときに、危険を回避するため体をアクティブな状態にします。
交感神経が優位な時には、消化機能が抑制されます。
現代社会では、私たちは慢性的なストレスにさらされています。
これは常に身体が危険を感じている状態です。
そのために、現代のライフスタイルは、交感神経が優位な状態が長時間続くようになってしまいました。
その結果、本来は12時間ごとに優位が交代する交感神経と副交感神経のバランスが破綻し、めまい、冷や汗、体の部分的な震え、動悸、血圧変動、立ち眩み、睡眠障害、耳鳴り、頭痛、吐き気、微熱、過呼吸、倦怠感、不眠症、生理不順、味覚障害といった身体症状や、人間不信、情緒不安定、不安感やイライラ、被害妄想、うつ状態など精神的な症状を訴える人が増加しています。
ストレスによって腸の乳酸菌が減る
大脳はストレスを感じると、自律神経に「緊急対応シグナル」を出して交感神経が優位となります。
交感神経が優位になると消化管の働きが抑制されます。この抑制状態がすぐに解除されれば問題はありませんが、抑制状態が長く続くと、消化管の蠕動運動が低下し、その結果として、消化管の粘膜層が壊れて、胃や腸に潰瘍ができます。
また、ストレスによって腸内細菌叢が変化することは、過去の様々な研究から明らかになっています。
ストレスによる腸内細菌叢の変化は、乳酸菌が減るという好ましくない方向に進みます。
このようにして、いったん腸の正常な機能が損なわれてしまうと、ストレスがなくなった後でも腸の機能が回復しないため、腸から脳に送られるシグナルが正常に働かず、脳の働きや精神状態に影響をおよぼします。
また、免疫防御機能やホルモンなどの内分泌機能も低下した状態が続きます。
「ストレスは万病のもと」と言われる背景には、このような腸と脳の関係性があるのです。
腸内細菌叢を整えようと考え、サプリメントや乳酸菌を大量に摂っても、交感神経と副交感神経による自律神経のバランスが整っていなければ、期待される効果は薄いでしょう。
ストレスを乗り切ろうと、サプリメントや薬に頼る人がいますが、ストレスそのものがなくならければ、本質的な解決には至りません。
まずは「休息の神経」である副交感神経が優位になる時間を確保できるように、普段の生活を見直してみましょう。
【参考】