自律神経についての基本的な知識はこちらの記事を。
「自律神経ってなに」
「ストレスを避ける」
「ストレスをなるべく避けてくださいね」
誰もが一度は、医師からこんな言葉をかけられたことがあるでしょう。
しかし、仕事や人間関係のストレスを全て避けていたら、世捨て人になってしまいます。
また、ストレスは必ずしもネガティブなものではありません。
何かを達成しようと自分にプレッシャーをかけて頑張ること。
ワクワクすることに一所懸命に取り組むこと。
友人と集まって大騒ぎすること。
このようなポジティブな行動も、精神的な興奮状態を作り出し、交感神経が優位な状態となります。つまり、このようなポジティブな行動もストレスとなるのです。
良いストレスと悪いストレス
ストレスには「悪いストレス」と「良いストレス」があると言われています。
「悪いストレス」とは恐怖、怒り、不安などのネガティブな感情をともなうストレスで、「良いストレス」とは達成意欲や快い興奮などのポジティブな感情をともなうストレスです。
多くの人は、悪いストレスを、良いストレスで打ち消して、精神のバランスを取っていますが、どちらのストレスを受けるにしても、交感神経が優位な状態にあることに変わりはありません。
苦しさを楽しさで紛らわすことは、一時的には気持ちを楽にする効果がありますが、それを繰り返すと心身の疲労は蓄積し、いずれどこかで精神は破綻をきたすでしょう。
昼間はストレスフルな仕事、夜はストレスを発散させるために街で大騒ぎをする。
そんなテンションの高い狂騒的な生活をしていると、ふと気持ちが緩んだ時に、体調がガクンと悪くなることがあります。
これは心身のバランスが崩れた状態で働き続けた人間の、然るべき結果と言えます。
悪いストレスを良いストレスで打ち消しても、身体を緊張モードにする交感神経は優位な状態のままです。
本来ならば、ストレスを受けて交感神経が優位な状態が続いたら、身体をリラックスモードにする副交感神経が優位になる状態を作り出し、自律神経のバランスを調整しなければいけません。
健康を損なう原因は、ストレスそのものにあるのではなく、緊張とリラックスのバランス、つまり交感神経と副交感神経のバランスが乱れた生活を送ることにあるのです。
交感神経が優位な状態が続くと心身が消耗する
自律神経は体内のホルモン分泌と密接な関係があります。
緊張や興奮によって交感神経が優位な状態では、副腎皮質ホルモン(ステロイド)、アドレナリン、甲状腺ホルモンが分泌され、血糖値と血圧が上昇、心拍数が増加し、身体が活動的な状態になります。
また交感神経が優位な状態では消化器の働きが抑制されます。
リラックスしていて副交感神経が優位な状態では、成長ホルモン、インスリン、性ホルモンが分泌され、血糖値と血圧が抑制され、心拍数が減少します。
副交感神経が優位な状態では、細胞が活性化し、消化器の働きが活発になり、身体を成長させたり、回復させたりする状態となります。
交感神経が優位な状態では、身体が活動的な状態になりますが、血管や心臓には負担がかかります。
加えて、消化機能が抑制されるので、便秘や食欲不振になることもあります(場合によっては、逆に過食になることもあります)。
交感神経が優位な状態が長期間にわたって持続すると、高血圧や動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病になる危険性が高まります。
また、交感神経が優位な状態が続くと、回復の時間が取れず、心身が消耗していきます。
自動車も、整備や修理をせずに乗り続けたら、いずれどこかが壊れます。
自動車同様、人間にも、適切な整備と修理を行う時間が必要なのです。
自律神経と免疫の関係
近年の研究で、自律神経と免疫には深い関係性があることが明らかになっています。
免疫の中心的な役割を担うのは白血球ですが、白血球はリンパ球、顆粒球、マクロファージに大別されます。
リンパ球はウイルスのような小さい異物や癌細胞を処理するもので、比較的緩やかに働きます。
マクロファージは細菌などの大きな異物を処理するもので、強力で速効性のある免疫システムです。
このマクロファージの働きをさらに強化したものが顆粒球で、強力な殺菌作用があります。
白血球内でのこの3種の割合は、おおまかにリンパ球40%、顆粒球55%、マクロファージ5%です。
交感神経が優位な状態になり、アドレナリンが分泌されると、顆粒球が増加して、リンパ球が減少します。
敵から攻撃されたり、危機から逃避中に怪我をした場合に備えて、強力で速効性のある殺菌作用を持つ顆粒球が増加するのです。
これは生理反応としては理にかなっていると考えられます。
ただし、現代人のように慢性的なストレスによって交感神経優位な状態が持続し、顆粒球が常に優位な状態となると、問題が出てきます。
強力な免疫細胞である顆粒球は、活性酸素を発生させて細菌を殺しますが、使われなかった顆粒球は2~3日で死んでしまい、死んだ顆粒球からも活性酸素が発生します。死んだ顆粒球から発生した活性酸素は、体内の常在菌や細胞を破壊します。
もちろん体内には、過剰な活性酸素を無効にするシステムが備わっているのですが、顆粒球が増えすぎると、活性酸素の処理システムが追い付かずに、人の細胞自体にも損傷を与えて癌の原因となるのです。
さらに、交感神経優位な状態ではリンパ球が少なくなっているため、癌細胞への抵抗性も低下しています。そのために活性酸素による組織損傷が蓄積すると、癌になるリスクが高まると考えられています。
ストレスも必要、休息も必要
ストレスによって交感神経が優位になることは、人間が活発に活動するためには欠かせないものです。
しかし、活発に活動した身体をいたわり、回復するための休息時間も必要です。
そのためには副交感神経が優位となる時間を確保することが不可欠です。
健康的な生活を送るためには、交感神経と副交感神経の働きをよく理解し、両者のバランスを上手に取るような生活を心がけましょう。
【参考】