「自律神経を整えると健康になる」
このような言葉を最近よく耳にしますが、そもそも自律神経とは、どういうものなのでしょうか?
神経には、脳と脊髄からなる「中枢神経」と、脳と脊髄から全身に分散している「末梢神経」があります。
この末梢神経のうち、自分の意思で動かせるものが「体性神経」、動かせないものが「自律神経」です。
自律神経の「自律」とは?
「自分の体の中に存在するのに、自分の意思では動かせない」
そう聞くと不思議な感じがしますが、心臓の拍動をはじめとする、人間の生命を維持する機能の多くは、自分の意思で動かすことができません。
自律とは「他からの支配や制約を受けず、自らの規範に則って行動する」という意味で、中枢神経からの自律性をもって、人間の生命を維持する機能をコントロールするのが「自律神経」です。
私たちが眠っている間も、自律神経の働きによって、心臓が拍動し、呼吸し、消化管が食物を消化・吸収し、体温が維持され、ホルモンなどのバランスが調整され、生命が保たれているのです。
交感神経と副交感神経
人間の身体は常に一定の状態に保たれているわけではありません。
身の危険や恐怖を感じた時には、素早く行動できる緊張モードになります。
一方で、身の安全が確保でき、心身ともに安定している時には、緊張をほぐして疲労を回復するリラックスモードになります。
このように状況に応じて心身の状態を切り換えるのも自律神経の働きで、緊張モードにするのが「交感神経」、リラックス状態にするのが「副交感神経」です。
交感神経の「交感」という言葉がわかりづらいかもしれませんが、これは「交感神経」という言葉が、ドイツ語の「Sympathischer Nerv」の直訳だからでしょう。
「Sympathischer」とは「共感、同感、共鳴」を意味する言葉で、英語の「Sympathy」に相当します。
感情が昂ぶった時に心臓の鼓動が早まったり、汗が出たりするのは「感情に反応する神経」である交感神経が活発になっている状態です。
交感神経はストレスに対応して心拍数を増す、血管を収縮させて血圧を上げる、消化器の働きを抑えるなど、身体を緊張モードにする神経です。
その反対に、副交感神経は、心拍数を減らす、血管を広げて血圧を下げる、消化器の働きを活発にして、消化・吸収を促すなど、心身をリラックスモードへ導きます。
交感神経と副交感神経は、片方が活発になると、もう一方は抑制されるといったバランスで働きます。
交感神経が副交感神経より活発な状態を、専門書などでは「交感神経が優位になる」といった表現を使います。
両方が同時に活発になったり、抑制されることはありません。
基本的に自律神経は、朝起きて、日中に活動し、夜は休むという人間の基本的な生活リズムに同調しています。交感神経は人間の活動性が高まる日中に優位になり、副交感神経は心身が休息状態になる夜間に優位になります。
朝起きて夜寝る、という基本的な生活リズムが壊れてしまうと、交感神経と副交感神経のバランスが乱れて心身に悪影響をおよぼし、自律神経失調症といわれる状態になってしまいます。
自律神経を自分の意思でコントロールする
自律神経は「他からの支配や制約を受けない」と述べましたが、実は間接的に自分の意思で自律神経をコントロールする方法があります。
過去の怖い出来事や、イヤなことを思い出すとドキドキしたり、汗ばんだりしますよね?
それは思考によって交感神経が優位な状態になるからです。
逆に瞑想などによって精神状態を落ち着かせることで副交感神経が優位な状態を作ることもできます。
このように、精神状態をコントロールすることで、自律神経もコントロールすることが可能です。実際、スポーツの世界ではメンタル・コントロールに関する多くの研究がなされています。
興味深いのはヨガや太極拳で、本来ならば体を動かすことによって交感神経が優位な状態になるのに、瞑想のような精神コントロール術を組み合わせることで、副交感神経とのバランスを取るという、独特の状態を作り出します。
現代人は交感神経が過剰に優位
これは言うまでもないことですが、長時間のストレスを受ける現代のライフスタイルでは、一日を通して交感神経が優位な状態が続きます。
ストレスには、恐怖や不安といったネガティブな感情だけではなく、ワクワクしたり、楽しいといったポジティブな感情も含まれます。
日中は仕事に追われ、帰宅後も寝る直前までスマホやPCをながめている生活は常に交感神経が優位となっています。心身ともにリラックスし、副交感神経が優位な状態を意図的に作り出すような姿勢が健康の鍵となるでしょう。
【参考】