こんにちは、精神科医の青木です。
今回は「本人が精神科への受診や入院を望まない場合は?」という質問にお答えします。
本人が精神科への受診や入院を望まない場合はどうしたらよいか
本人は精神科の受診を嫌がってはいるものの、家族は受診させたいと考えている場合はどうしたらよいのでしょうか。
まずは、本当に精神科の受診が必要かどうか、役所の福祉課に相談してみてください。そのうえで必要と判断されれば、適切な医療機関を探していくことになります。
発達障害や知的障害の場合には、専門の医療機関を探す必要があります。
病状によっては入院先が限られることも
また、アルコール依存症や薬物依存症などで強制的な入院が必要と判断された場合、病状によっては入院先が限られることがあります。居住エリアの医療機関で受け入れが難しい場合は、遠方の医療機関を勧められることもあります。
受け入れ可能な医療機関が決まれば、家族がそこに出向いて相談することになります。これは医療行為ではないので、健康保険が適用されません。病院によっては、医師もしくは精神保健福祉士が無料で相談を受ける場合もありますが、実費(5,000円前後)を請求される場合もあります。
相談内容としてよくあるのが、本人の迷惑行為(暴力など)が手に負えないというものです。
その迷惑行為が精神疾患によるものと判断し難い場合には、警察に相談してもらうことになりますが、精神疾患によるものであると判断されるならば、受診を拒む本人をどのようにして受診させるかを考えることになります。
嫌がる本人を無理やり入院させるべきかどうか、家族としても非常に迷うところだと思われます。実際、入院を先送りにして、自宅でもうしばらく様子を見ようという判断もないわけではありません。
ただし、迷惑行為の原因が精神疾患であれば、強制的に入院させたとしても、わだかまりが残ることはあまりありません。
病状が改善して、冷静に物事を考えられえるようになると、「入院して良かった」とか、「家族に申し訳なかった」と思われる人もいます。
もっとも、症状が慢性化していて、入院しても思ったほど症状が改善しない場合や、性格的な偏りが大きい場合、入院させた後で家族に恨みを抱くことがないわけではありません。
どのように病院に連れてくるかですが、親戚を集めて、2〜3人で車に連れ込んで来たり、本人が信頼している親族が説得して一緒について来たりする場合が多いです。もし親戚がいなければ、民間救急という事業があるので、それを利用してもらうことになります。
家族のなかには、本人をだまして連れてこようとする場合もありますが、すべてを病院に押しつけてこられても、その後の治療がうまくいくはずがありません。家族と病院が協力し、意見を一致させて対応することが一番大切です。
親族間での十分な話し合いも必要
また、精神科入院に関して、親族の間で認識に隔たりがあると、入院後にトラブルとなることもあります。
以前、入院中の患者さんが親戚に電話したところ、その親戚が驚いて病院に飛んできたことがありました。
精神科に入院するというと、あらぬ誤解を生む可能性もありますが、無用な不信を招かないためにも、必要最低限の連絡は親族間で行い、理解と協力を得るのが望ましいと思われます。
アルコールや違法薬物などが絡むと、事態はさらに複雑です。入院していったん症状が落ち着いたとしても、退院後、また同じ問題を繰り返すことが多いからです。
最終的には家族が離れていき、患者さん本人が孤立無援の状態になることもあります。
青木 崇(精神科医)
1970年川崎生まれ。1996年京都大学医学部医学科卒。
京都第一赤十字病院研修医、富田病院(函館)常勤医師を経て、2005年国立清華大学人類学研究所(台湾・新竹)卒(人類学修士)。帰国後、のぞえ総合心療病院(久留米)副医局長を経て、2009年から関東の民間病院で病棟医長を務めている。精神科医、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医。
『こころの病気を治すために「本当」に大切なこと : 意外と知らない精神科入院の正しい知識と治療共同体という試み 』
青木崇(精神科医)