こんにちは、精神科医の青木です。
今回は「精神科の薬を止めることはできますか?」という質問にお答えします。
精神科の薬を止めることはできますか?
精神科に限らず、どのような病気でも、体調が良くなると、患者さんが勝手に薬を減らしたり、治療を止めたりすることはよくあることです。
精神科の薬の場合、服薬を止めることができるかどうかは、病気の種類と程度によって異なります。
神経症の場合、症状を引き起こしているストレスの原因がなくなれば、薬を止められる可能性はあります。過労や離婚問題などのストレスが原因で頭痛、吐き気、動悸、不眠といった症状があらわれた場合、その根本的な問題が解決すれば、治療も薬も終結することができるでしょう。
ただし〝うつ病〟の場合は、注意が必要です。
長期服用になることも少なくない
本当の「うつ病」なのか、その手前の「うつ状態」なのか、もしくは「自律神経失調症」の一症状なのか、正確に判断することは難しいのですが、抗うつ薬や精神安定剤を服用している場合、薬を急に止めると離脱症状という不快な副作用を引き起こす場合があります。
また、せっかく快方に向かっていたうつ病が再発する恐れもあります。
たとえば、あるうつ病の患者さんは、薬が奏効して体調が良くなったので、勝手に薬を減らし、ついにはまったく飲まなくなったとのことでした。
それから1カ月ほど経って、妻からある問題を切り出されたところ、再び眠れなくなり、激しい動悸や不安にも襲われるようになったそうです。
再度病院を訪れた時には、表情は初診の頃のような暗くて硬い感じに戻っていました。
病気が日常生活に支障がない状態にまで回復した状態を「寛解」とよびますが、うつ病の場合、寛解に至っても、最低半年は抗うつ薬を続けることが望ましいといわれています。
その際、薬の量はそれまでの半分程度に減薬できる場合もあります。
とはいえ、うつ病の患者さんのなかには長期にわたって薬を飲み続けなければならない人がいるのも事実です。
特に一部の症状がなかなか消えない場合や、高齢の場合には、再発の恐れが高く、薬を止めるのが難しくなってきます。
また、双極性障害や統合失調症の場合も、長期服薬となるでしょう。
特に、双極性障害の患者さんが軽躁状態になった場合、「もう治った」「薬を減らしたい」と言い出したり、こっそり薬を減らして飲んでいたりすることがあり、その結果、本格的な再発につながってしまうことが少なくありません。
「薬を減らしたい」という気持ち自体が軽躁状態の症状なので、医師がいくら丁寧に薬の必要性を説明しても、徒労に終わることが多いのです。むしろ、医師はこの徒労感から、患者さんが軽躁状態にあることを、見抜かなければならないのかもしれません。
「薬が必要ない」=「病気が治った」という認識から、「いつになったら薬を止められるのか」と考える患者さんや家族の方は多いと思われます。
しかし、このような訴えを聞き入れて、薬を減らしたり止めたりした結果、病気が再発して後遺症が残ったり、以前よりも悪化してしまったりすることもあるのです。
青木 崇(精神科医)
1970年川崎生まれ。1996年京都大学医学部医学科卒。
京都第一赤十字病院研修医、富田病院(函館)常勤医師を経て、2005年国立清華大学人類学研究所(台湾・新竹)卒(人類学修士)。帰国後、のぞえ総合心療病院(久留米)副医局長を経て、2009年から関東の民間病院で病棟医長を務めている。精神科医、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医。
『こころの病気を治すために「本当」に大切なこと : 意外と知らない精神科入院の正しい知識と治療共同体という試み 』
青木崇(精神科医)