こんにちは、精神科医の青木です。
今回は「精神科で処方される漢方薬はないのでしょうか?」という質問にお答えします。
精神科で使われる漢方薬
実は、精神科は漢方薬を比較的多く用いる診療科です。
ただし、漢方薬は西洋薬のように、一つの症状に直接作用するわけではありません。
基本的に、西洋薬が症状を直接改善するような働きをするのに対し、漢方薬は体全体の体質へと働きかけます。また、さまざまな精神症状のなかには、漢方薬が比較的効きやすい症状とそうでない症状があります。
たとえば、不眠に効く漢方薬があるのですが、その不眠がうつ病に起因するものであれば、まずは西洋薬によるうつ病治療を優先することになります。
漢方薬を処方する事例
このような前提のもとで、次のようなケースによく漢方薬を用います。
女性の生理に関連した症状、たとえば月経前症候群(PMS)とよばれる生理前の抑うつ気分やイライラ感、あるいは生理中のむくみや冷え症といった症状には、漢方薬を処方することが多く、また、更年期の諸症状にも効果的です。
その他、めまい、耳鳴り、のどのつかえ、食欲不振、便秘といった自律神経の症状にも漢方薬が効果的な場合があります。
最近注目されている漢方薬に、抑肝散(よくかんさん)があります。認知症にも効果があるといわれており、ほかにも不眠やイライラ感にも効果が認められています。
漢方薬の難しさ
ただし、漢方薬の難しいところは、患者さんの体質や体力によって、処方が異なることです。
たとえば、食欲不振を訴える患者さんが、やせ型で若い頃から食欲が落ちやすく、胃下垂の傾向があれば、六君子湯(りっくんしとう)という漢方薬を処方します。
しかし、同じ食欲不振でも、このような体質でなければ、六君子湯は著効しづらいです。その場合は、患者さんの体質に応じた別の漢方薬を処方することになります。
青木 崇(精神科医)
1970年川崎生まれ。1996年京都大学医学部医学科卒。
京都第一赤十字病院研修医、富田病院(函館)常勤医師を経て、2005年国立清華大学人類学研究所(台湾・新竹)卒(人類学修士)。帰国後、のぞえ総合心療病院(久留米)副医局長を経て、2009年から関東の民間病院で病棟医長を務めている。精神科医、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医。
『こころの病気を治すために「本当」に大切なこと : 意外と知らない精神科入院の正しい知識と治療共同体という試み 』
青木崇(精神科医)