こんにちは、精神科医の青木です。
今回は「認知症患者さんの入院について」という質問にお答えします。
認知症なのかうつ病なのか判断が難しい場合も
多くの精神科病棟では、うつ病や統合失調症の患者さんと一緒に、認知症の患者さんも入院しています。
初老期、もしくは老年期の患者さんのなかには、認知症なのか、それともうつ病などの気分障害なのか、明確な診断を下せないことがあります。
それでも、アルツハイマー型認知症の場合は、早期からの服薬で進行を遅らせることができるので、疑わしい場合には抗認知症薬を投与します。ただし、現在の治療薬では進行を1〜2年遅らせることしかできません。
一般的に、認知症の進行はゆるやかで、年単位で進んでいきます。一緒に生活していなければ、進行の速度はわからないくらいです。
ただし、別の病気で入院したり、引っ越しといった環境の変化で、急に症状が進んだように見えることもあります。
他方、気分障害は、何らかのきっかけで急に発症したり、悪化したりすることがあります。うつ病の場合、数週間から2〜3カ月のスパンで症状が進行します。
このような症状の悪化するスピードを除けば、集中力や注意力の低下といった症状が、うつ病に起因するものなのか、それとも認知症のものなのかは判断しづらい場合があります。
ただし、うつ病の既往歴があれば、まずはうつ病の再発を疑います。
また「最近、物忘れが激しい」、「認知症になったのではないか」、「何かガンのような悪い病気にかかっているのではないか」といった身体面での不安や訴えが強い場合も、うつ病の可能性が高いと思われます。
うつ病の診断が正しく、抗うつ薬で症状が改善したとしても、高齢者の場合は、すぐに再発したり、新たに認知症が進んできたりすることもあります。
また、抗うつ薬の副作用は、高齢者ほど出やすいため、薬による治療が十分にできず、中途半端な治りかけの状態が続くこともあります。
重篤な抑うつ症状、不安焦燥、幻覚妄想、興奮、暴力といった症状や行動が目立つ場合には、入院治療が必要となるかもしれません。
その際には、抗うつ薬や抗精神病薬、気分安定薬を使用することになるのですが、そうすると、眠気やふらつきといった副作用の影響で転倒のリスクが高まります。
また、認知症が進んでいたり、耳が遠かったりすると、他の患者さんとコミュニケーションが難しくなります。
介助が必要なケース
老化によって身体的な機能が衰えてくると、介助が必要となります。入院した患者さんがこのようなハンディを抱えていると、集団にうまく馴染めなかったり、作業療法プログラムに参加できなかったりして、自信を失ってしまうことがあります。
身体的に問題がなく、認知症も初期の状態であれば、若い患者さんとの交流が良い刺激となる場合もありますが、そうでなければ、認知症専門の病院や病棟への入院が望ましいと思われます。
認知症専門の病棟では、転倒予防の設備や、認知症向けの専門プログラムが充実しています。また患者さん同士の年齢が近いこともあり、親近感を抱きやすいでしょう。
昨今、地方の精神科救急では、高齢の患者さんの増加が問題となっています。認知症専門の救急病棟の設置や、それに対する診療報酬の設定などが望まれるところです。
青木 崇(精神科医)
1970年川崎生まれ。1996年京都大学医学部医学科卒。
京都第一赤十字病院研修医、富田病院(函館)常勤医師を経て、2005年国立清華大学人類学研究所(台湾・新竹)卒(人類学修士)。帰国後、のぞえ総合心療病院(久留米)副医局長を経て、2009年から関東の民間病院で病棟医長を務めている。精神科医、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医。
『こころの病気を治すために「本当」に大切なこと : 意外と知らない精神科入院の正しい知識と治療共同体という試み 』
青木崇(精神科医)